132 / 216

日常

「よし。行くぞ」 鏡と睨めっこしていた僕は、ついに意を決して家を出た。 いつもより良好な視界。澄んだ空気。 少し俯きがちになりながらも、僕はマスクと眼鏡を付けていない状態で歩いていた。 文化祭が終わった次の日、いつも通り顔を隠して登校したらクラス中からブーイングを受けてしまったのだ。 その圧に負けてマスクと眼鏡を外すことになり、今日はその初日。僕としては不安しかないけれど、約束した手前また顔を隠して行く勇気もありはしない。 (まぁ、いつも通り静かに過ごしていればなんとかなるか) 溜息を吐きながら、僕は登校中そんな投げやりな思考で自分を納得させた。 ……しかし。 「あ!あの子だよね!?」 「ジュリエット姿じゃなくてもチョー可愛い!」 「虎介くーん、こっち向いて〜!」 「きゃあっ、今目が合った!」 「何言ってんの!私と合ったのよ!」 目が合うも何も、俯いてるから誰も見ていないのだけど……。 校門をくぐってから昇降口までの道のりを、なるべく早歩きで進んでいく。 なんかさっき、チラッと【虎介 LOVE】のハチマキをした団体がいたのが見えた気が……。 怖いもの見たさでもう一度確認してみると、【虎介 命】【虎介 エンジェル】というのも見えた。 あ、いくつかバリエーションがあるんですね……。 「なんか凄いことになってんのな」 「っ、あ、生駒くん……!」 かけられた声にビクついた僕は、相手が生駒くんだと気付いて声を上げた。

ともだちにシェアしよう!