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日常
「よし。行くぞ」
鏡と睨めっこしていた僕は、ついに意を決して家を出た。
いつもより良好な視界。澄んだ空気。
少し俯きがちになりながらも、僕はマスクと眼鏡を付けていない状態で歩いていた。
文化祭が終わった次の日、いつも通り顔を隠して登校したらクラス中からブーイングを受けてしまったのだ。
その圧に負けてマスクと眼鏡を外すことになり、今日はその初日。僕としては不安しかないけれど、約束した手前また顔を隠して行く勇気もありはしない。
(まぁ、いつも通り静かに過ごしていればなんとかなるか)
溜息を吐きながら、僕は登校中そんな投げやりな思考で自分を納得させた。
……しかし。
「あ!あの子だよね!?」
「ジュリエット姿じゃなくてもチョー可愛い!」
「虎介くーん、こっち向いて〜!」
「きゃあっ、今目が合った!」
「何言ってんの!私と合ったのよ!」
目が合うも何も、俯いてるから誰も見ていないのだけど……。
校門をくぐってから昇降口までの道のりを、なるべく早歩きで進んでいく。
なんかさっき、チラッと【虎介 LOVE】のハチマキをした団体がいたのが見えた気が……。
怖いもの見たさでもう一度確認してみると、【虎介 命】【虎介 エンジェル】というのも見えた。
あ、いくつかバリエーションがあるんですね……。
「なんか凄いことになってんのな」
「っ、あ、生駒くん……!」
かけられた声にビクついた僕は、相手が生駒くんだと気付いて声を上げた。
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