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日常5

しばらく「うー」と唸って葛藤していた僕だったが、ついに折れて彼の腕の中に身を寄せる。 ちょこんと膝の上に座る形になって、その距離感に心臓がバクバク音を立て始めた。 ダメだ。平常心でいないと。 これくらいであわあわしていたら、慎太郎くんに揶揄われてしまう。 そう。これはただのハグなのだから、一々動揺していてはダメだ。 「虎介ー」 「ん?」 また名を呼ばれて顔を上げると、鼻の先にチュッと柔らかいものが触れた。 それが慎太郎くんの唇だと気付き、10秒ほど固まる。 目の前の彼は、可笑しそうに笑って僕の頬を突いた。 「早く慣れて欲しいけど、慣れてない虎介も可愛い」 「な、慣れるって、何に……?」 「俺とのイチャつき」 そう言いながら僕の前髪を指に絡ませ、今度は頬に彼の唇が触れた。 もう、なんだこれ。  どう反応をとっていいのか分からない。といっても今は固まるだけで何もできはしないけれど。 「髪さ、切ったら?前髪とか長くない?」 「え」 言われて意識を向ける。 確かに顔を隠すため、僕は前髪をかなり伸ばしていた。 中学を卒業してからずっと長いまま今までやってきて、正直これが落ち着くのだが……。 「折角なら、とことんさっぱりしたら?絶対可愛いよ」 そう言って前髪をかきあげ、今度はおでこにキスをされる。 調子が狂いっぱなしの僕は、髪について何の反論もできず、結局切りに行くことになってしまっていた。

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