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日常6

家に着いてリビングに入ると、ただいまを言う暇もなく父さんに抱きつかれた。 「おかえり虎介ー!」 「た、ただいま。今日、早かったんだね」 「あぁ。っていっても、俺もついさっき帰ってき……」 体を離し僕を見た途端、父さんの笑顔がピキッと固まった。 時が止まったようにこちらを凝視する父さんに、僕は照れ臭くて顔を横に向ける。 「あ、あんまり見ないでよ……」 「……虎介。髪、切ったのか」 「う、うん。長かったからさ」 「そうか。……虎介」 「ん?」 「めっっっちゃくちゃ可愛いぞ」 「……」 グッと親指を立てて真剣な顔で言ってくる父さんに、僕は顔を引きつらせた。 「ただいまー……お、虎介髪切ったんだ。似合うね」 「あ、碧兄、おかえり」 リビングの扉が開いて、碧兄が帰って来た。 「どういう心境の変化?」 「え、いや……。な、なんとなくっ」 「ふーん」 「……なに?」 「べっつにー」 何を察したのか楽しそうに僕を見つめる碧兄。それに堪らず顔をそらすと、父さんまで「え、なに?やっぱ恋してるのか虎介!」と騒ぎ始めた。 髪を切っただけで、我が家は賑やかである。 ──そして学校でも……。 「虎介くん髪切ったのっ?きゃあ、チョー可愛い!」 「写真撮らせて!写真!」 「堪らねー!これだけで学校来た意味あったわ!」 「虎介きゅーん!こっち向いてー!」 次々にかけられる言葉に、僕はもうヘロヘロだった。 ほんとその日1日は散々で、先生まで話題に上げてくるくらいだ。  いいから放っておいて欲しい、今までみたいに……とはいかないか。 ……でも。 「お。虎介、似合ってるじゃん」 そう彼が微笑んでくれたから、悪いことばかりでもなかったかな。

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