143 / 216

喧嘩

掃除の時間。僕は名塚くんと2人、体育館前の洗い場にいた。 今日はここの掃除を任されていて、僕たちはタワシ片手にゴシゴシと流しを掃除している。 名塚くんは、文化祭の時僕らのクラスの劇は見れなかったそうだ。だから僕の素顔を知らないままらしい。 なんとなく彼とは素顔の状態でいろいろと関わりを持ってしまったから、今さら本当のことも言い出しにくくて未だに顔を隠している。 「なんか虎介のとこの劇、凄かったみたいだな。俺も見たかったぁ!」 「あはは……。名塚くんのとこは、焼きそばだっけ?」 「そうそう!俺こう見えても料理好きだからさ、スゲー貢献してたんだ!」 「え。名塚くん料理好きなのっ?」 まさかの共通点に声を弾ませる。 彼とはバスケ好きという点でも同じだし、もしかしたら好みが似ているのかもしれない。食べ物とか、服の好みとかも一緒だったりして。 「あれ。このホースって、外してもいいんだっけ?」 「ん。あぁ、そうだね。巻いておこっか。俺やるよ」 今の寒い時期、すっかり冷たい水で冷えてしまった手を擦り合わせる。 こういう時、マスクって暖かいんだよなぁ。夏は地獄だけど。 でもこれからは無理につける必要はないんだと思うと、少し考え深いものがあった。 「あ!虎介!!」 「へ?」 いきなり大声で呼ばれて顔を向ける。 その瞬間、ビシャー!っと大量の水が全身にかかった。 突然のことで目を白黒させていると、名塚くんが慌てながら駆け寄ってくる。 「ご、ごごごめん!ホース抜いたら水が噴き出して……!!」 「……そ、そう」 見事に全身びしょ濡れの僕に、名塚くんが慌ててタオルを差し出してきた。 それを申し訳なく思いながら借りようとして、僕は動きを止める。 これ、拭くってなったらマスクとか取らなきゃだよな……? 「これ使って!」 「あ。いや……ぼ、僕持ってるから取りに行ってくるよ……!」 「いいって!すぐ拭きたいだろ!?」 「でも、濡らしちゃうし……」 「そんなの気にしないから!ほら!」

ともだちにシェアしよう!