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喧嘩5

その独り言のような呟きに、慎太郎と名塚は呆然とする。 すると虎介が俯いていた顔をゆっくりと上げた。 次の瞬間、目の前の2人はその表情に硬直する。 全身を駆け巡ったものは紛れも無い恐怖だった。 なんだか、虎介がめちゃくちゃ怖い……。 気付けば慎太郎(名塚も何故か)は虎介の目の前で正座をしていた。 未だ無言の虎介は仁王立ちで慎太郎を見下ろす。その全身から「怒ってます!」という感情が伝わってくるようだ。 いつもの虎介からは考えられない、身の竦むほどの怒気。 整った顔だからこそ、怒った表情が余計に恐ろしい。 「あ、あの……虎介、さん……?」 黙り込んだ虎介に、慎太郎は恐る恐る声をかけた。 2人が固唾を呑む中、引き結ばれていた彼の口がゆっくりと開く。 「…………もう」 「え?」 「もう……っ、君なんか知らない!!」 いうや否や、プンプンしながら歩いて行ってしまう虎介。 そんな彼の背中を慎太郎はきょとんと眺めていることしかできない。 こんなにもはっきり虎介の口から拒絶の言葉をかけられたことがあっただろうか。 いつもは優しくて穏やかな虎介。そんな彼を自分は怒らせてしまった。怒らせるほどに酷いことを、虎介に言ってしまった。 「うおっ。シンが抜け殻みたいになってる!」 「……」 隣で正座する慎太郎を見て、名塚はギョッと声をあげる。 しかしそれにさえ気付かない慎太郎はかつてないほどの間抜け面になり、1人時が止まったかのようにただただ放心していた。

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