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喧嘩7
「にしてもあの虎ちゃんが怒るなんてな。まぁ俺的には、お前らが不仲になるのは逆に有難いけど」
「優璃うっさい」
「優璃は黙ってろ」
「は!?部屋押しかけてきたのお前らじゃん!」
キーキー騒ぐ生駒を無視して、志音は再びグラスを手に取った。
テーブルから顔を離したものの、未だ俯いている慎太郎の頭をチョップする。
「いてっ」
「うじうじ言ってても仕方ないでしょ。いつものポーカーフェイスはどうした」
「……虎介の前だと、上手くできない」
「だったらありのままの自分で、虎くんに謝りなさい」
「……」
ありのままの自分で……。
なんだか自分が言うと、嘘くさく感じる言葉だ。
今まで自分は偽りばかりを重ねて、周囲から一線を引いていたように思える。
初めは親の前でいい子の皮を被っていただけだったのに、いつしかその行為が生活に染み付いていた。
自分の本心とは。求めていることとは。
そういったものから目を逸らして、ただ愛想を振りまくだけの日々。
でも、虎介との出会いでそれは変わった。
本気で怒ったり、嬉しくなったりして、自分はこんなにも感情豊かな人間なのだと驚かされた。
そして、愛情というものに初めて触れた。
愛しているという感情がどんなものなのかを知って、まるで世界がカラフルに色付いたように思えた。
高鳴る胸が、帯びる熱が、自分は今ここにいると強く実感させてくれた。
今は誰よりも大切な存在だ。
だから、失いたくない。
折角思いが通じ合ったのに、このまま破局なんて絶対に嫌だ。
俺はずっと、虎介の隣にいたい。
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