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喧嘩8
「はくちゅっ」
小さなくしゃみをして、虎介は鼻をすすった。誰か噂でもしているのだろうか。
今虎介は、名塚と一緒に例のバスケットコートに来ていた。
あれからプンスカ怒りながら帰路についていた虎介を、名塚が心配して追いかけてきたのだ。
そして気晴らしにバスケでも、と誘われて今に至る。
「も、もう無理だぁ……!」
コートに大の字になって寝転がる名塚は、冬だというのに汗だくでボロボロの状態だった。
対する虎介は未だに顔をムスッとさせたまま、タンッタンッとボールをドリブルさせている。
2人の1on1を偶々見ていた小学生たちは、「あの兄ちゃんスゲー」と虎介に羨望の眼差しを向けていた。
嫉妬されることはまだいい。それだけ想ってくれているわけだから、寧ろ嬉しい。
でも、僕の想いを否定するのは違うと思う。
僕はちゃんと慎太郎くんが好きだし、元々同性が好きというわけでもない。慎太郎くんだから、同性であっても彼に恋心を抱いたのだ。
なのに、そんな僕の気持ちも考えないであんなこと……っ。
「あんまりじゃないか……!」
そう言って放ったシュートは、綺麗な曲線を描きリングの中へと吸い込まれていった。
小学生たちから歓声が上がる中、その声にさえ気付かずにプンプンしながらボールを取りに行く虎介。
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