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喧嘩10
けたけたと笑い始める虎介に、周りはぽかんとする。
わけが分からない慎太郎は、おずおずと虎介に声をかけた。
「あ、あの、虎介……?」
「ご……ごめん……っ、なんか、おかしくって……っ。あはははっ」
「お、おかしい?」
「き……君が、真剣に『ごめんなさい』なんて言うから……、つ、ツボに入った……っ」
「ええっ」
思わぬ理由に驚愕した慎太郎は暫く固まっていたが、やがて虎介につられて笑みを浮かべた。
「あははっ。なんだよ、それ」
あぁ、可笑しい。可笑しくて愉快だ。
君といると、いくつもの知らない自分が顔を出す。
世界が鮮やかに色付く。
呼吸がフッと楽になる。
ほんと、今までの無機質な生活が嘘のようだ。
離したくない。ずっと側にいたい。
この感情は重いだろうか。君には、負担だろうか。
でも、ごめん。君の前では、もう偽ることができそうにない。
だって俺は、もう《愛している》を知ってしまったから。
恋に落ちるという感覚を、味わってしまったから。
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