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甘露2
「おっきい家……」
金曜日の今日。学校の帰りにそのまま慎太郎くんの家に来た僕は唖然とする。
見上げる先には、豪邸の一言に尽きる建物……。
つい口を開けて見上げる虎介の間抜け顔に、慎太郎はクスッと笑う。それに気付いた虎介は、慌てて手で口を押さえ顔を赤らめた。
するとその時、中からドアが開けられたので虎介はビクつく。
出てきたのは中年の女性だった。一瞬慎太郎くんのお母さんかと思ったが、その雰囲気からして違うことを悟る。
目が合うと、彼女は僅かに目を見張ったがすぐに穏やかな表情になった。
「今日来られると言っていたお友だちですか?」
「うん。井上さんは帰りだよね。お疲れ様」
「お邪魔だと思って先に帰ろうと思っていたんですけど、間に合わなかったみたいですね」
困ったように笑う井上さんという女性。
僕がぽかんと2人の会話を聞いていると、慎太郎くんが彼女は家政婦さんであることを教えてくれた。
「初めまして。家政婦の井上です」
「は、初めまして、天野ですっ」
礼儀正しい挨拶をされ、僕は慌てて頭を下げる。
そんな僕を見つめていた井上さんは嬉しそうで、でもどこか悲しそうな複雑な笑みを浮かべた。
「ありがとうね」
「え?」
なんのことか分からずに首をかしげる。
しかし井上さんはそれだけを言い残して帰って行ってしまった。
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