158 / 216

甘露6

「用意はしてあるよ」 「よう、い……?」 「必要なもの、ちゃんと揃えてる」 にこっと笑う慎太郎くんに、「よ、用意周到……」と僕は汗を流す。 正直僕は、ある意味で健全な男子高校生ではないのかもしれない。 何故かと言えば、普通の男子ならある程度関心を持つであろう性的なことに滅法弱いからだ。 かつてのトラウマもあり、僕はそういったことからは避け続けてきたため碌な知識がない。 父さんや碧兄がそれにどうこう言うはずもなく、周りの友達も僕の前では敢えて話さないように思えた。 そんな風に気遣われる僕もどうかと思うが、心中ではホッとしている自分がいた。 でもまさかこんな日がくるなんて。 今更になって疎い自分に引け目を感じる。 今抱き寄せられていることにさえ、心臓がバクバクうるさいのだ。 自分だけいっぱいいっぱいで、慎太郎くんに呆れられたくない。 だから僕は思い切って彼に打ち明ける。 「あ、あの、慎太郎くん……っ」 「ん。なに?」 「ぼ、僕、実は……。そ、そういうことっ、したことないんだ……!」 「うん。だろーね」 「へ」 あっさり返されてしまい瞠目する。 そんなさも当然のことのように言われて、どういう心境になればいいのかイマイチ分からなかった。 涼しい顔をしている慎太郎くんの心がまったく読めない。 こんな知識も碌にない僕でも、大丈夫なのだろうか。 それにそもそもの話、男の僕は彼を満たしてあげられるのか? 僕には女の子のような魅力はない。その上なんの経験もないのだから、良いところなんて皆無じゃないか。 「ぼ、僕……、面倒じゃない……?」 おそるおそる彼を見上げて尋ねれば、こちらを真っ直ぐに見つめていた慎太郎くんと目が合う。 交わった視線に、体が熱を帯びた。 なんだか涙腺が緩みそうになり、俯いた僕はグスッと鼻をすする。 そんな自分が情けなくて身を縮こませると、ポンと頭に手が乗せられた。 顔を上げると、チュッと鼻にキスをされる。 優しく僕の頭を撫でる慎太郎くんはゆっくりと僕をソファーに座らせて、至近距離で見つめ合った。

ともだちにシェアしよう!