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不穏なもの2

「ごめんね。あいつの代わりに態々」 「いいよ。どうせ今日は暇だったから」 届け物を無事渡し終え僕は帰ろうとしたが、すぐに志音くんに引き止められてお礼にケーキをご馳走すると言われた。 それに動きを止め、僕はキラキラと目を輝かせてしまう。 あからさまに反応してしまう自分が恥ずかしい。 しかしショートケーキに目がない僕は、遠慮もなしにご馳走してもらうことにした。 「はい。おまたせー」 控え室のテーブルに置かれたショートケーキに、僕は満面の笑みを浮かべる。 すぐにもぐもぐ食べだした虎介を、微笑ましそうに頬杖をつき見つめていた志音は話を切り出した。 「虎くんってさ、バイトとかしないの?」 「え?あ、あぁ……」 志音の質問に、虎介は手を止め困ったように眉を下げる。 その反応に志音が首をかしげる中、一瞬で空になった皿にフォークを置いて、虎介は口を開いた。 「一度、飲食店でバイトをしたことがあるんだけど……」 「? うん」 「そのときお客さんから、その……せ、セクハラというか、そういうことをされて……」 「……うん」 「それ以来、父さんからバイト禁止令を出されてるんだ……」 遠い目をして「ははは……」と笑う虎介に、志音はなんだか申し訳ない気分になった。 「もう一個、ケーキ食べる?」 「えっ、いいの?」 途端瞳に輝きが戻った虎介に、志音はすっかり親の気分で「お食べお食べ」とうんうん頷く。 追加のケーキをテーブルに置くと、虎介はまたもぐもぐ食べ出した。 虎くんって、食べ方も小動物みたいで可愛いよなぁ。 なんだろう。無性に写メ撮りたい。 今なら結衣さんの気持ちが分かるかもしれない。

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