171 / 216

不穏なもの4

「な、なに……?」 「……何か違うなぁって思ってたんだけど、そういうことねぇ。ふぅ〜ん」 「だ、だから何が……!?」 困惑する虎介を楽しそうに見つめながら、志音は言葉を続けた。 「虎くん。なんか妙に色気が出てるんだよ」 「………はい?」 ぽかーんとする虎介に、志音はニヤニヤと笑みを浮かべながら身を寄せた。 そしてその耳元でそっと囁く。 「シンと、やったんでしょ?」 「?」 言われた虎介は「やったって、何を?」ときょとんとしていたが、やがて何かを察したようでカァァアッと顔を赤く染め上げる。 その光景を眺めていた志音は、さらに笑みを深めてゆらゆらと体を左右に揺らした。 「そっかぁ〜。やっぱりそうなんだぁ〜」 「……っっ!いやっ、そのっ、なんっ、……ぁ、あ!僕っ、よ、よ、用事!用事あるの忘れてた!ケーキありがとう!じゃ、じゃあ!!」 転がるように出て行く虎介に周りが驚く中、志音はなおもニヤニヤしていた顔を今度は優し気な笑みに変えて、ポツリと呟く。 「……よかったね。虎くん」 僕も、少しくらいは頑張らないとな〜。 そんなことを思いながら、届け物で渡された袋から中身を取り出す。 出てきたのは青色の缶のハンドクリームだった。 そういえば、最近手が荒れるのがどうこうって話をしてたっけ。 照れたように笑みを浮かべながら、志音は愛おしそうに青い缶を見つめる。 今日12月3日は、四宮 志音の誕生日だ。 優璃のやつ。恥ずかしいからって人伝いにプレゼント渡してくるの、相変わらずだな。 虎くんに今日誕生日なの教え忘れたけど、あとで怒られちゃうかな。 きっとシンに教えられちゃうだろうし。 シンには1日早く学校で手鏡を貰った。 女の子じゃないんだからとツッコんだが、流石に選ぶものが洒落ていてデザインも可愛らしい。世渡り上手ならではのプレゼント。 それに加えて、優璃のプレゼントは不器用さが滲み出ている。 僕が言ったのそのまんまじゃん。 なんていちゃもんを付けながらも、その表情はひどく穏やかだ。 大事そうに持ったその缶を、志音は再び袋にしまった。

ともだちにシェアしよう!