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不穏なもの5
「あぁぁもうっ、恥ずかしくて死にそう……!」
あれから虎介は、メイド喫茶を飛び出して足早に帰路に着いていた。
真っ赤になった顔を隠すように、キャップを深く被る。
このキャップは以前ショッピングモールで慎太郎くんに買って貰ったものだ。顔を隠しやすいし、黒のシンプルなキャップなので使いやすい。
慎太郎くんの家でのお泊まりから一週間。
志音くんとは別のクラスだし、今部活が忙しいとかで会えていなかったのだけれど、まさかあんなことを言われるなんて……。
もう。色気ってなにさ。
僕は別に何も変わってなんか……
「あれ?」
その時、僕ははたと足を止めた。
慎太郎くんの姿を見つけたのだ。
声をかけようとして、また動きを止める。
彼の前には、2人の厳つい男性が立っていた。
1人は大学生だろうか。黒髪ツーブロックの彼はとても大人びている。目付きとかすごく怖いし、口にはタバコを咥えているから威圧感倍増だ。
もう1人は高校生に見える。少し歳上だろうか。金髪から覗く耳にはたくさんピアスが付いていて、彼も黒髪さん同様目付きが怖かった。
まるで極道のような2人と、慎太郎くんは何か話しているようだ。
もしかして、絡まれているのでは?
ゴクリと喉を鳴らし、僕は汗を流す。
どうしようとしばらくオロオロしていた僕は、次には決心して真っ直ぐ彼らに視線を戻した。
だったら、僕が助けないと……!
いつも慎太郎くんには頼りっぱなしだし、一度くらい僕だって彼の力になりたい。
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