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不穏なもの8
色々と苦労したのだなと同情する。
そうしていると、切り替えたように顔を上げた慎太郎くんは僕の肩にポンと手を乗せた。
「じゃあ虎介も来たことだし、俺もう行きますね」
「え。いや、僕のことは気にしないでいいよ……?」
「そんなんじゃなくて、俺が虎介といたいからさ。ね?」
そう言われては何も言えず、僕は赤らんだ顔を俯かせる。
彼は何故、こんな台詞をサラリと言ってのけるのだろう。嬉しいけど、同じくらい恥ずかしくてまいってしまう。
黙り込む僕の背中を押して歩き出す慎太郎くん。
「あ。そういえばさぁ、シン」
しかしそれを、柏木さんの声が引き止めた。
振り返る慎太郎くんに彼は面白がるように笑って、何でもないように言葉を続けた。
「お前ってさ。相変わらず“親の操り人形”やってんの?」
予想もしていなかった彼の発言に、僕は驚愕に目を見開く。
今彼は、なんと言った……?
あまりにも軽い調子だったので、一瞬言葉の意味を理解できなかった。
でも確かに彼は慎太郎くんの家庭事情について尋ねたのだ。
“操り人形”などという表現を使って。
「……おい、朔弥」
「大変だよなぁ、坊ちゃんって。マジ同情する。ヤンキーにたかられたりとかしなかった?あ。たかってたのは俺か」
ケラケラ笑う朔弥に、慎太郎は何も言わなかった。
別に挑発しているわけでも、何か裏があるわけでもない。ただ純粋に思ったことを話している相手を、ただ無言で眺めている。
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