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不穏なもの9
「もし俺だったら絶対親の言いなりになんかならねーけどな。何でもかんでも親に従うとか、そんなのダッセーし」
相変わらずデリカシーのない発言に、流石に逹己が動いた。
朔弥の肩を掴み、「おい」と制止の声をかける。
「ん。なんスかタツさん?」
「お前な。いい加減その無神経さなんとか……」
「謝れ」
逹己の声を遮った声に、一瞬時が止まった。
ピンとその場の空気が張り詰めるような、そんな威圧感さえ感じさせる声。
その主である虎介へと視線を向けた慎太郎はハッとする。
慎太郎が見た虎介の瞳には、明らかな怒りの色が滲んでいた。
暫く呆気にとられていた朔弥は、自分に向けられたであろう言葉に少し口ごもった。
それでも言われた意味を理解できずに首をかしげる。
「なんで、俺が謝るんだ?」
「あなたが酷いことを言ったからです」
「酷いこと?どんな」
「……そんなことも分からないんですか」
フツフツと煮え滾るような虎介の低い声に、慎太郎はただただ固まることしかできない。
彼が怒ったところは、以前喧嘩した際に見たはずだった。
しかし今回のはさらに怖い。
一見絶対零度のように冷め切っているようだが、その奥底には燃え上がる怒りの炎が見える。
これは多分、虎介ガチでキレてる……。
また新たな一面を見れたことや、自分のために怒ってくれていることに本来なら喜ぶべきなのだろう。
しかし今はそんなことを考えられる余裕がないほど、虎介の豹変ぶりに驚愕していた。
そして、単純にビビッていた。
「慎太郎くんは操り人形じゃないです。ちゃんと自分の意思を持ってて、言いなりになんかなっていません。だからそれを否定するようなことを言ったあなたは、謝らなきゃいけない」
「いや別に俺は……」
「謝れ!」
目尻を吊り上げ一帯の空気が震えるような怒鳴り声を上げる虎介。
いつも癒しのオーラを振りまく彼からは考えられないほどの威圧感。
その怖さには流石の朔弥も完全に納得したわけじゃない状態であったが、咄嗟に慎太郎に謝罪した。
誰かに頭を下げる朔弥など始めて見た慎太郎と逹己は呆気にとられ、虎介は仁王立ちのままずっとその目をつり上げていた。
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