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不穏なもの10
「あの、虎介……?」
前を黙々と歩く虎介に、慎太郎は恐る恐る声をかけた。
あれからその場を後にした虎介を追いかけるように着いて来た慎太郎だったが、何と声をかければいいのか分からずに狼狽する。
あんなに怒った虎介を見るのも初めてだから、どう接すればいいかも分からない。
彼が今何を考えているのかを読みあぐねて切り出せずにいた。
名を呼ばれた虎介が足を止める。
同様に慎太郎も立ち止まり、ジッと相手の反応を待っていた。
静寂が続く中、次には虎介がポツリと呟くように言う。
「……ごめん」
「え?」
何故謝るのか分からず呆然とする慎太郎に、虎介は背を向けたまま弱々しく続けた。
「ついカッとなって、君の友だちに怒鳴ったりしちゃった……」
そう話す虎介に、慎太郎は無言で彼の前に回り込む。
覗き込んだ虎介の顔は、真っ赤に染まっていた。
感情が高ぶったことを恥ずかしく思っているのだろう。
先ほどの威圧感は何処へやら。すっかり小さくなっている虎介に、慎太郎は呆気にとられた。
そんな中、次には顔を上げた虎介はきゅっと眉を寄せて両手を握りしめる。
「でも、あんなの絶対に許せない。あの人は慎太郎くんのこと、何も分かってないよ」
そう言って、今度はプンプン怒り出す虎介。
コロコロ変わる彼の表情に、気づけば慎太郎は笑い出していた。
けたけた笑う彼に困惑する虎介。
そんな動揺した顔すらツボに入る。
おかしい。すごくおかしい。
「あ、あの、慎太郎くん……?」
オロオロする虎介に、手を伸ばした。
体を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめる。
腕の中でビクついた虎介は、その後は大人しくされるがままになった。
そんな虎介の頭に顔を埋めて、慎太郎は微笑みを浮かべる。
「ありがとう、虎介。俺のために怒ってくれて」
自分のために怒ってくれた虎介が、心底愛おしかった。
ただただ嬉しくて、顔が綻ぶのを止められない。
「ね。今から虎介の家行っちゃだめ?」
「えっ?ど、どうしてそんな……」
「虎介と離れたくないから」
「〜〜〜っ。……い、家に連絡して、みます……」
拒絶されないことに益々嬉しくなって、慎太郎は更に腕の抱擁を強めるのだった。
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