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不穏なもの11
カーテンから差し込む日の光に眼を覚ます。
携帯を見れば、時刻は8時を少し過ぎた頃だった。
少し気怠い体を起こせば、パサリとかかっていた毛布が滑り落ちる。
いくら暖房をつけていても、何も身に纏っていない体はヒンヤリと冷たい。
無意識に腕を手で摩っていると、不意に後ろから伸びて来た腕が腰に回される。
振り返れば自分と同じく裸の男が、眠そうにあくびを漏らしていた。
「眠いならまだ寝てたら?逹己、授業午後からでしょ」
「んー……。いや、起きる。レポートのことで大学に用があるから」
「ふーん」
いつもはやけに大人びているくせに、2人きりの時にふと見せる姿はひどく幼げだ。
弟がいる自分としてはつい世話を焼いてやりたくなるが、この男はなんでも器用にこなしてしまうから殆ど意味がなかったりする。
弟といえば、最近何か様子が変わったような気がするのだ。
纏う空気が変わったというか、時折見せる仕草や表情に色気を感じる。
元々周囲を惹きつけてしまうきらいがあるのに、更に魅力的になってしまって兄としては複雑な心境だった。
可愛い弟が、ついに誰かのものに……。
純粋に弟の成長を喜ぶべきなのか否か。
自分がこれほどダメージを受けるのだから、あの親バカな父が知りでもしたら卒倒くらいはしそうな気がする。
「何。考え事?」
下から声をかけられ、飛んでいた意識を戻した。
どうやら考え込んでしまっていたらしい。
弟のことになるとついつい深入りしてしまうのは自覚済みだ。
「……ん。ちょっとね」
「ふーん」
先ほどの俺と同じ返しをしながら、のそりと逹己が起き上がる。
程よく鍛えられたその体は美しいと思う。綺麗についている筋肉とか、細っこい自分には羨ましい限りだ。
この前それを告げたら、思いっきり顔をしかめて『抱き心地悪くなるから、そのままでいてくれ』と言われてしまった。その理不尽さには流石に慣れっこだ。
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