181 / 216

不穏なもの14

そこまで言って髪を拭くのをやめ、逹己はキッチンに向かう。 どうやらコーヒーを淹れ始めたようで、俺は朝食作りに入った。 「じゃあ見た目とのギャップがあったその子に、朔弥くんは興味を持っちゃったわけ?」 「それもあるけど……。その子のダチってのが、俺らのダチでもあるんだ」 「ふーん。高校時代のとか?」 「そうそう。で、そいつって一匹狼な感じというか、誰にも心を許さないところがあるわけよ」 俺らにもどこか一線引いてたしな。と小さく付け加えられる。 どうやらかなり、その相手のことは気にかけているようだ。 「それで、そいつがどうしたわけ?」 「……優しかったんだよ」 「え?」 「その男の子に向ける目とか声とかが、今まで見たことないくらい優しかったんだ」 真剣な顔つきでそう言う逹己。 それだけで、その一匹狼くんがした行動が相当意外だったのだと察しがついた。 「……つまり。朔弥くんも意外に感じて、心を許されてる男の子に興味を持ったと」 「あぁ。朔弥のやつ、やたらシンに絡むところあるからな」 「シン?」 「あー、そのもう1人の知り合いだよ」 「ふーん。で、その興味持ったことの何が心配なわけ?」 「……なんとなく」 「え?」 「なんとなく、マズイことが起こりそうな気がしたんだ」 シンがその子を連れて帰っていくのを見ていた時、隣で朔弥は小さく笑った。 ちらりと顔を見れば、何か胸騒ぎがするような笑みを浮かべていたのだ。 まるでその目は獲物を捕らえた肉食獣のような、そんな獰猛な光を宿しているようで…… 『シンのヤツ、面白そうなの捕まえてんじゃん』 なんだか不穏なモノが迫っているような、そんな気がしてならなかった。

ともだちにシェアしよう!