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幸運なもの7
すぐ側から声がして咄嗟に飛び退いた。
心臓がバクバクいう中で顔を向けると、いつぞやの金髪ヤンキーさんとバッチリ視線が合う。
この人は確か……柏木さん?
そう理解した瞬間、虎介は息を呑む。
彼に対して、正直いい印象がなかった。
というかあんなことがあったのに、普通に話しかけられて少々面食らってしまう。
あの時のことを謝るつもりはないが、このまま無視をするわけにもいかないので虎介は彼に向き合った。
「……」
「え。なんか顔怖くね?また怒ってんの?」
「……いえ、別に」
「そっか!ならよかった!」
あからさまに不機嫌な虎介の態度に、相変わらずの鈍さで気付きもしない朔弥は無邪気な笑みを浮かべた。
「……あの。用がないなら帰りますけど」
彼にはハッキリと言わなければ分からないだろうと思い、虎介にしては珍しく端的にものを言った。
すると朔弥は相変わらず軽い調子で手をヒラヒラと振る。
「あー、まぁ用はあるんだわ」
「?」
思いがけない返しに首をかしげると、朔弥は少し身を屈めて声を潜める。
「ちょっと話があんの。大事な話」
「……どんなですか」
「んー、……シンの事、かな」
「慎太郎くん?慎太郎くんがなんですか?」
「それはちょっとここでは言えねぇ。俺の家来いよ。ここから近ぇから」
「いや、それは……」
「誰が聞いてるか分からねぇだろ。大事な話なんだ」
一歩も譲らない彼に押されてしまう。
それに大事な話というのが気になった。
慎太郎くん関連の大事な話とは、一体何なのだろう。
「……ここから家って、どのくらいですか」
そう静かに尋ねた虎介に、朔弥は嬉しそうな無邪気な笑みを再び浮かべた。
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