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幸運なもの8

「いま家誰もいねーから」 「……お邪魔します」 徒歩5分ほどで着いた一軒家。 飄々とした様子ですぐに階段を上っていってしまう柏木さんに、僕は躊躇しながらもそのあとをついて行く。 正直会って2度目の相手の家に行くなんてどうかと思った。 でも慎太郎くんの名前を出されては断れない。 大事な話というのが気になるし、僕が断ったことで慎太郎くんが何か言われたりするのも嫌だった。 柏木さんの部屋に通され、カーペットの上で座っているとお茶を用意してくれた柏木さんが入って来る。 部屋の中なので帽子を取っていた僕を見て、彼はうんうん頷いた。 「ほんとかわいいよなぁ。アイドルとか入ったら絶対一瞬でセンターとれる」 「センターって……、それ女性アイドルじゃないですか……?」 お礼を言い、出されたお茶を一口飲む。 なんだか冗談で言っている感じがしないから調子が狂う……。 柏木さんって、天然、なのかな。 「な、かわいこちゃん」 「あ、あの。僕、天野です……」 「ふーん。かわいこちゃんは、いつからシンと知り合いなの?高校?」 ……これは、無自覚なのか? 呼び名を変えてくれない柏木さんに顔が引きつる。 「………まぁ、はい」 「じゃあまだ1年も経ってねぇんだ。にしては随分仲よさそうだったよな?」 「し、慎太郎くんは話上手だし優しいから、誰とでも仲よさそうにしてますよ」 「そう!優しいんだよ!」 「……はい?」 いきなり食いついて来た柏木さんに驚いていると、彼は腕を組んでうんうん唸り出す。 「なーんかさぁ。異常なほどかわいこちゃんに対してシンが優しいんだよ。声とか、目とか、オーラとか!」 「そ、そうですか……?」 「そうだって!もうトロットロよ!大トロよ!」 「お、大トロ……?」 一体なんの話をしているんだ? 展開についていけない僕は首をかしげる。 「というか、あの……。慎太郎くんのことで話があるんじゃ……、っ!?」 話している途中で、急に視界がぐらついた。 横に倒れそうになった体を、咄嗟に手をついて支える。

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