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幸運なもの11

途切れてしまった通話に溜息を吐く。 男子高校生に対して心配が過ぎるかもしれないが、虎介の性格上何も連絡を入れないのはおかしい。 ましてや繋がらないのだ。これは何かあったのではと疑いたくもなる。 これは父さんに連絡した方がいいのだろうか。 でも今日は帰りが遅くなると聞いている。仕事中だとしたら、繋がる可能性は低い。 その時、携帯が鳴った。 咄嗟に画面を見れば、残念ながら虎介ではない。 「逹己……」 表示された名前を呟き、碧兎は少し迷ってから通話ボタンを押す。 「……もしもし」 『あぁ、突然悪い。実は課題のことで聞きたいことがあってさ』 「……」 『……碧兎?』 「え。あ、ごめんなに?」 『……お前、何かあった?』 言葉に詰まる。 鋭い逹己は、すぐに何かを察してしまったらしい。 誤魔化すのは難しいだろう。彼と自分はよく似ているから、考えていることだってすぐ分かる。 「……逹己。どうしよう……」 気付けば縋るように虎介のことを話してしまっていた。 逹己は話が進むにつれ無言になっていく。 そして暫く黙った後、『そっち行くから、ちょっと待ってろ』と返された。 同様に慎太郎くんが向かって来ているのを思い出した頃には通話は切れていて、碧兎は黒い携帯画面を見つめ、ぽつりと弟の名前を呟いた。

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