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幸運なもの20
「……おい。こりゃどーいうことだ?」
帰ってきた匠は、リビングにいた逹己と朔弥を見て首を傾げた。
それに一緒にいた碧兎がことの説明をする。
黙って話を聞く匠。
碧兎が話し終えると、彼は何を言うでもなく朔弥へと向き合った。
そして一歩二歩と歩み寄り、目の前まで来る。
どうするのだろうとそれぞれが様子を見ていた、その途端…
物凄い速さで繰り出された拳が、朔弥の真横の壁にブチ当たった。
ドンッ!と一瞬家全体が揺れる。
「「「……」」」
一瞬の出来事にただただ固まる3人。
匠に殴られた壁は、見事にべっこりと穴を開けていた。
長い前髪から覗く瞳が、ギラリと朔弥を睨みつける。
その鋭い視線だけで、ビクッと朔弥の体は強張った。
「おい」
「……は、ハイ」
「この落とし前、どーやってつける気だ?」
低く怒りに満ちたその声に、その場は静まり返る。
「父さん、ちょっと待って」
キレかけている匠を、碧兎は咄嗟に止めに入った。
見事に穴が空いた壁に頭痛を起こしながら、先程逹己と話し合ったことを説明する。
「朔弥くんのことは、警察ざたにしたくない。別に情けをかけてるわけじゃなくて、虎介が望まないと思うからだよ。ことの事情を話すなんて、それこそ虎介が嫌な思いをする」
「……」
「今回朔弥くんのやったことは許すつもりはない。でも、俺たちが勝手に判断していいことでもない」
話を聞きながら口をへの字にさせる匠は、次にはガシガシと頭をかき、大きな溜息をついた。
少しの静寂の後、彼は呟くように言う。
「……わかった」
その言葉にそれぞれは安堵した。
……しかし。
「じゃあ、一発殴らせろ」
「「「え」」」
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