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幸運なもの21
顔を上げた匠は凶悪な笑みを浮かべて拳を握る。
その周りからは負のオーラが立ち込めており、3人は顔を引きつらせた。
「俺のかっっっわいい虎介に被害を加えたんだ。警察に突き出さないにしても、せめて一発殴らなきゃ気が済まねぇッ」
そう言い目をつり上げる匠に、碧兎と片手で顔を抑えた。
だめだ。こうなってしまったらもう止められない……。
「まぁ一発殴るくらいならいいんじゃない?」
「えっ」
「そうだな。そんくらいされても文句は言えねぇことはしてる」
「ええっ!?ちょ、2人とも!?」
見捨てられた朔弥が何かを抗議するより先に、強引に胸倉を掴まれ視界がグルンッと回る。
「よぉし、歯ぁ食い縛れ」
「……マジか」
さっきの壁と同じ道を辿るのか……。
いや、死ぬよ!ぜってぇ死ぬ!
顔面を蒼白にさせる朔弥に、碧兎と逹己は目を閉じてナムナム…と合掌するのだった。
「?」
何か下から大きな音がして、僕と慎太郎は首をかしげる。
何やら下が騒がしいみたいだけど、どうかしたのかな。
さっきから僕は、慎太郎に後ろから抱きしめられてベッドの上に座っていた。
ぎゅっとくっ付いてくる慎太郎は可愛くて、つい口元が緩んでしまう。
今回のことで、慎太郎は大分落ち込んでしまったらしい。
悪いことをしてしまった。彼の為を思ったはずが、逆に迷惑をかけてしまうだなんて。
「あの、ごめんね。元はと言えば、僕が柏木さんについて行ったのが悪かったんだ」
「……いや。虎介は何も悪くないよ」
これで全部自分が悪かったなどと言われればすぐに否定しただろうが、慎太郎の浮かべた黒い笑みに僕は口をつぐむ。
「悪いのは全部バカサクのやつ。バカだとは思ってたけど、まさかここまでとは。あとで絶対一発ブン殴る」
「……ほ、ほどほどにね」
あはは…と乾いた笑みを浮かべると、優しく抱き寄せられ唇が重なった。
唐突なキスに顔を赤らめると、慎太郎は甘えるように僕の肩に顔を埋める。
「ねぇ、こすけ。しちゃだめ……?」
「え、するって……。えぇっ、い、今から!?」
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