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番外編 優璃・志音2

 その時優璃の携帯から着信音がした。 届いたメッセージを見る顔は、面倒くさそう。 きっとまたどこぞの女子だな。 虎くんに夢中だった間は一切なかったはずだけど。 きっと現実逃避ってやつだ。 優璃なりに、叶わない恋に距離を置こうとしている。 でも、ちゃんと知ってる。 まだ切り離しきれていないって。 側に虎くんがいたり、話の中に虎くんが出てきたりすると、決まって同じ顔をする。 恋をしてる顔をする。 「……いつまでそーゆーの続けんの」 「は?なにが」 携帯から視線をこちらへ向けられる。 でも僕は、そちらを見ないまま地面に向かって言った。 「いつまで失恋引きずってんの」 「っ、……別に、引きずってねぇし」 「引きずってるし。ズルズルだし」 「あーなんだようるせぇな!ンなの仕方ねぇじゃん!割り切り方が分かんねぇんだから!」 ガシガシ頭をかくから、もうボサボサになってる。 なんかちっこい時の優璃みたい。 歯抜けでウシシと笑う間抜け顔が蘇る。 「……バカ優璃。そんなの簡単じゃん」 顔が熱い。 周りの音が、どこか遠く感じた。 土砂降りの雨の中、幼馴染と2人きり。 まるで僕らの空間だけ、世界から切り離されたみたいだ。 未だ顔を俯かせたまま、僕は口を開く。 「僕にしとけば、万事解決でしょ」 「………は?」 優璃が何かを言う前に、その場から駆け出す。 後ろで「あ、おい!」と戸惑った声が聞こえたけど、そんなの構わない。 あーあ。言っちゃったよ。 でもまぁ、もうどーでもいーや。 立場とか、維持とか、遠慮とか そんなもの、もうどうでもいい。 その時、カチリ、と 僕の中の時計が動き出す音がした。

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