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番外編 優璃・志音6
いつもだったらこいつに抱くはずのない緊張で、心臓がドクドクうるさい。
昨日のことは、あれっきり何もなしのまま今を迎えている。
朝は志音のやつが朝部で早く家を出ていたし、学校内でもチラッと見かけはしたけど鉢合わせることはなかった。
何をいえばいいのか分からずオロオロしていると、呆れ顔を作った志音が不意に口を開く。
「今日ご飯、ウチに食べに来るよね?」
「へ?いや、あ、うん…」
「じゃあちょっと待ってて。今部活終わったから準備する」
「……はい」
あれ?あれれ?
いつも通り?
やっぱあれは何でもなかったのか?
そうして目をパチクリさせながら志音の様子を伺う俺。
そこでふと気が付き、ハッと我に返る。
ってか、何で俺がゴチャゴチャ考えなきゃいけないんだよ!?
こいつに振り回されてるとかバカみてぇじゃん!
「なに百面相してんの優璃」
「うるせぇ!なんでもねぇよもう!」
「はぁ?意味分かんないし」
意味が分からないのはこっちの方だ。
そう言い返したかったがなんとか抑え込んで口を閉じる。
「昇降口にいる!」と行ってドスドスと歩いて行く優璃。
その背中を、志音は静かな瞳で見つめ続けていた。
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