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番外編 優璃・志音7
「えぇっ。言ったの!?生駒くんに!?」
「まぁ、はっきりではないけど…」
照れ臭くて手に持っていたシェイクのストローを咥え、視線を逸らす。
すると謎の静寂が起きてしまったので、僕はチラッと向かいに座る虎くんを見た。
すると彼は、この上ないほどの満面の笑みを浮かべていたのでギョッとする。
「な、なんでそんな嬉しそうなの…?」
「ん〜?だってさぁ〜」
ゆらゆらと体を揺らして嬉しそうに笑う虎くん。
なんだかもう、周りに花でも浮かんでいそうな勢いだ。
でも僕は、そんな楽観的になれない。
まずあのバカが言葉の意味を理解しているのかも分からないが、あれが正しかったのかなんて答えられなかった。
だって一方的に感情をぶつけられても、相手は困るだけでしょ。
言ったことに後悔はないけれど。
どうにでもなれって気持ちはそのままだけれど。
これでよかったのかなって、考えはする。
「こんなの、ただ優璃を困らせるだけだよね…」
そう弱気なことを呟くと、目の前の虎くんは笑みを崩さないままコクリと首を傾げた。
「どうして?好きって気持ちを伝えることは、すごく素敵なことだよ?」
「!」
瞠目し固まる志音に、虎介は優しく微笑みかける。
…なんて彼は、綺麗なんだろう。
そう無意識に心の中で呟く。
汚れを知らない、真っ直ぐで、陽だまりみたいに暖かい人だ。
僕はこんな風にはなれない。
汚れていて、捻くれている、どうしようもない人間だ。
優璃の望んでいるような、可愛い男の子にはなれない。
…けれど。
それですっぱり諦めることができないほどに、僕は優璃を好きになってしまっていた。
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