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番外編 優璃・志音9

走って走って、いい加減息の切れてきた志音は耐えきれずに壁に手をつき立ち止まった。 「ほんと…なんなの…。マジ…体力バカ…」 「…バカバカ…うっせ」 両者とものゼェゼェという息遣いが、誰もいなくなった廊下に響く。 もうみんな教室に戻ってしまった。 すぐに授業が始まる。 自分も行かなければいけないのに、このバカな幼馴染がそれをよしとしてくれない。 「…なんなのさ、一体」 眉を寄せて尋ねる志音に、優璃は詰め寄り ドンッと壁に手をついた。 両側に手をつかれ、まるで覆い被さられた状態に志音はカァッと赤面する。 なに、これ。 距離近い…。 「お前ってさ」 「……」 次に来る言葉を黙って待っていれば、優璃はバッと顔を上げた。 「お前って、俺のこと好きなの!?」 「!?」 瞠目し、志音は固まる。 そして口をつぐんで俯いた。 長い静寂が続く。 それに耐えられなくなった優璃が口を開こうとした時、ポツリと志音が呟いた。 「……小学校の時」 「は?」 いきなり何、と言おうとし、顔上げた志音の瞳を見て口をつぐむ。 「優璃は、チビで歯抜けで髪の毛ボサボサで頭悪くて協調性なくて落ちこぼれだった」 「うぐ…っ」 いきなり罵倒されて顔を引きつらせる優璃。 しかし志音はお構いなしに「でも」と話を続ける。 その瞳を揺らし、優璃を見上げる。 見つめ合った幼馴染に、 志音は、静かに告げた。 「どこまでも真っ直ぐな優璃に、憧れてた」 驚愕する優璃の制服をきゅっと握り、志音は話し続ける。 「僕は…、虎くんみたいに可愛くも、純粋でもないけど…」 ポロっと、志音の瞳から滴がこぼれた。 「代わりでもいい。だから…。僕じゃ、ダメ…?」

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