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図書室の鍵を閉めていると、新田はそれを
廊下の端に立って待ち、振り向いた俺を見て
切り出した。
「携帯の動画…消してくれます?」
誰もいない廊下で、一定の距離をとって話す。
聞き取れる、ぎりぎりの小さな声で。
「それは無理だ」
新田は指先で唇を撫でるようにして、うつ向く。
「心配しなくても、お前があの事
誰かに話したりしなければ
世に出ることはないよ
何事もなければお前が卒業したら消す」
新田はしばらく考えるような顔で黙りこみ
分かりました、と ひとこと言うと
俺に背を向けて歩き出した。
遠ざかる猫背の背中を、俺は黙って見送った。
俺が罪悪感を感じている姿を見せたら。
今度は空かさず交渉をしてくる。
新田はやっぱり、したたかだ。
ホテルから出てきたところで、バッタリ俺と
鉢合わせても、開き直ったような顔をしていた。
あの態度を忘れては、足元を掬われかねない。
気をつけなければ、とあらためて思った。
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