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4. 罪 ※

「先にシャワー浴びる?」 ホテルに入ってすぐに聞いた。 「……お先にどうぞ…」 「あそ?じゃぁ お先に」 俺が風呂に向かい、直前で振り向くと 新田はうつむいたまま ストンとベッドの上に座った。 ー 新田のヤツ逃げないかな? イヤ…逃げるならここまでついてこないか… ここまで俺の車で来た。とはいえ、無理やり 新田を車に押し込んで拉致った訳じゃない。 逃げるならいくらでも逃げられたし、 そもそも拒否しようと思えば口でも 何とでも言える…それすらなく、 新田はむしろ大人しく俺に着いてきた。 ー まさか………。 下着だけ履いて、頭からバスタオルを被ったまま 気配を殺し、洗面所からそっと新田の様子を 覗いてみる。 そして、それを見て、俺は吹き出しそうになるのを 必死でこらえた。 「パスワード分かった?」 俺の言葉に新田が驚いて飛び上がる。 俺の携帯を両手で握りしめて。 恐る恐る振り返り、俺の表情を窺う。 俺はその小動物のような顔が可笑しくて 腹の底から笑いが込み上げた。 「おまえさぁ、仮にパスワードが分かってさ あのデータを消せたとしてよ? それで安心できるわけ? 俺が別のトコにも 保存してるかも、とか思わない?」 新田は顔を赤くしてうつむいた。 「…そこまで…します?」 「するだろ普通。これは俺の命綱だからな」 俺は近づいて行って。 新田の手から携帯を取り上げて バックの中に放り込んだ。 新田は、俺があの日と同じように、突然 キレるんじゃないかと思ったようで 俺のすることにビクビクと縮み上がった。 俺はそれすらも可愛く思えて 自分でも驚くほど、穏やかな気持ちで 新田の頭をなでた。 「ほら、シャワー行っといで」 俺の言葉に、新田は一瞬 戸惑っていたけれど 諦めたように、黙ったままシャワーへ向かった。 ー ついにここまで来てしまった……。 新田の言っていたように、こんな事バレたら 俺は終わりだ。 仕事を失うどころか、もうここでは生活できなく なる。 そうなったら今日の日を後悔してもしきれない だろう。 趣味の悪い薄い紫の艶々した素材のベッドに 大の字で寝転がる。 ー 最後のチャンスだ…。 今ならまだ、冗談にして帰れる。 アイツを家まで送って、家で動画を見て… その時、洗面所からガチャガチャ音がして 新田がシャワーを終えて風呂場から出た 気配がした。

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