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その日、新田のクラスへ授業に行くのは 少し気まずかった。 俺の心の底を、新田に見透かされそうな 気がして。 LL室で授業をして、自習に近い内容で ごまかした。 なるべく新田は見ず、かといって変に 無視したりもしない。 新田と間宮の関係を気にしている事なんて バレないように…。 大人の余裕を保たなければいけない。 授業を終えて 、生徒達がバラバラと教室に戻って 行く中で、新田だけがノロノロと荷物をまとめ ついに最後の1人になった。 「まだか? 鍵閉めるぞ」 「今出ます」 短く言って新田が立ち上がった。 「この部屋あったかいから眠くなっちゃって 白井先生もさっきウトウトしてたでしょ?」 「……バレたか」 教卓の前まで、笑いながらゆっくり歩いてきて 猫のように伸びをした。 「…この前先生に教えてもらったとこ 全部テスト出たね」 「…そうだったか?」 「うん、ちゃんと覚えといて良かった アドバイスありがと」 知らないフリをする俺の顔を見て 新田が上目使いで笑った。 俺が問題を教えたという事に、気づいてるクセに あえてアドバイスという言葉を使う新田の あざとさに、ちょっと驚く。 会話が途切れても新田が動かず 部屋を出ようとしないので 俺は軽く新田の肩を押して、出るぞ、と声を かけた。 「今日さ…」 軽く抵抗して新田が部屋にとどまる。 「ん?」 「今日、また親父出張なんだよ」 俺も一緒に足を止めた。 「………へぇ、大変だな」 「気楽でいいけどね」 「誰も居ないからって、遅くまでフラフラ 出歩くなよ」 「………出歩くかも」 「こら」 持ってた教科書で軽く頭を叩いた。 「最近先輩が、出てこいってうるさいんだ」 「……間宮か…」 「うん…ちょっと前に、休み時間たまたま近くで 弁当食べてて、たまたま同じゲームしてて お前 上手いなって声かけられて…。 俺たち 中学が一緒で顔見知りだったから…」 「そうか…」 新田がワザワザそんな事を報告してくる 理由は分からなかったけど、もちろん俺は 悪い気はしなかった。

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