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「断るの大変なんだ」
「気にいられたな」
「俺よく年上に気に入られるから」
「そうだな、なんか分かるよ」
俺は腕時計を見てもう1度新田の肩を押した。
すると新田が俺の腕を掴んで、自分の目の前に
持ち上げて時間を見た。
「まだ5分もあるよ」
「お前なに?さっきから
俺に襲われたいの?」
捕まれた腕をやんわり振り払って言った。
「……襲いたくなった?」
顔を近づけて口の端だけあげて笑う。
その顔を見て、俺は襲いたくなるどころか
ゾッとした。
媚びた笑い方は売春婦のようで
ウリをしていた時、きっと新田はこんな風に
男をその気にさせてたのだろうと思うと
同じように扱われた事に腹が立って
一気に話す気が失せた。
「そんな目で見られても萎えるだけだよ
さっさと教室帰れ」
今度はちょっと強めに新田の背中を押して
部屋の外に出した。
新田は真っ赤になって振り返って
何か言いたそうに口を開いたけれど、結局
言葉は出てこなかった。
無視して部屋に鍵をかけて歩き出す。
ちょっと言い方がキツかった、と反省しつつも
不快感が勝って、新田とは目も合わせず職員室に
戻った。
その後は、ずっと新田の事を考えてた。
授業をしていても、同僚と話していても
ふとした隙間に、俺の反応に動揺した
新田の表情が浮かんできて、胸の奥がザワザワ
した。
帰る頃には新田の事ばかり考えている自分に
気づいて、車に乗り込むと、笑いが込み上げる。
ー あんな子供にまんまと引っ掛かって
萎えるだけなんてよく言うよ
“今日また親父出張なんだよ”
なんて、あからさまな誘いに乗ってやろうか
調子に乗らせない為にもスルーしようか
迷っていた。
でもさっきの新田の顔を思い出すと
放って置けない気もした。
俺に突き放されて、本当に間宮とフラフラ
出かけるかもしれない。
そうだ、ようやく俺の手からエサがもらえると
気づいたばかりの野良だ。
俺の態度次第で、すぐに尻尾を巻いて距離をおく
まだ完全に手の内に収めた訳じゃない。
首輪なんて無くても、エサなんて貰えなくても
勝手についてくるようになるのは まだ先だ。
あいつには、もう少し飴が必要なんだ。
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