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9. 幸福

櫂を家まで送り届けたのは 結局暗くなってからだ。 ギリギリまで泊めてしまおうか迷ったけれど 結局家に帰した。 長く一緒にいればいるほど、お互い沼にはまって 行きそうで…。 櫂は車から降りたら、何事も無かったような いつものちょっとダルそうで、覇気の無い 少年の顔で俺を見て笑い、何も言わずに マンションに消えた。 家に帰ってから、昨日から何度も電話をしてきた 主に電話を返した。 当たり前だが、すこぶる機嫌の悪い声で 進は電話に出た。 (……で? 誰といたの?) 開口一番に聞かれて俺は笑った。 「誰ともいないよ」 (じゃぁなんで電話にでないの?) 「体調悪くて寝てたんだ」 嘘だと簡単にバレるウソでもいい。 進はそれで納得する。 話したくない相手といたのだと伝われば その先は聞いてこない。 一夜限りの相手だったら隠さないし そんなお遊びの相手がいるのはお互い様だ。 暗黙の了解だった。 (ふぅん… 昨日放置されたし… 今日は行っていい?) 「今日は散らかってるからダメ」 (……なにソレ…そうちゃん家いつだって 散らかってるじゃん。 ナニで散らかってるんだか… … もういい。じゃあ、そうちゃんが来てよ) 「……分かったよ、じゃ後でな」 進の機嫌なんて気にせず、ヘラヘラと返事をして 電話を切った。 高揚した気分はちょっとやそっとじゃ下がらない。 正直、昨日から櫂とやりまくってクタクタで このままゆっくり眠りたかったけど…。 進に要求されても勃つかも分からないくらい 疲れていたし出しきったけど…。 進も大事なセフレだ。 ご機嫌はとっておかないと…。 進は、いつも穏やかで呑気だけど、意外と大胆な 行動をとって、回りを驚かせたりする。 今も、声の感じから、破裂寸前だということは すぐに気づいた。 放っておいたら家まで押し掛けてきそうだ。 メンドクサイけれど、俺は、そんな進のことも 結構嫌いじゃなかった。

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