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9. 5
年明け、すぐに櫂から連絡があった。
遊びに行っていい?と一言。
時計を見ると、もう19時をまわっていた。
「泊まる気?」
(ううん、今日は親父 帰ってくるから)
「あ、そ…まぁいいけど」
何しに来るんだ?と聞こうとしてやめた。
やりたいから来るんだ。
そうに決まってる。
1時間と経たずに櫂はマンションに来た。
ドアを開けると、髪を切って、少し大人びた
印象の櫂が立っていた。
「え、切ったの?」
「うん、今切ってきたの。似合う?」
言いながら、持って来た紙袋やバックを
ドサドサと床に置いて、ブーツを脱いだ。
「にあ、う…けど」
長めの前髪を撫でるのが好きだったのに…。
「…けど、ナニ?」
「……長いのも良かったから…」
「え、そう?先生いつも俺の髪 邪魔そうに
してたから、短い方が好きかと思った」
「…え?」
ー 俺の好みだと思って?切った?
「あーー!」
突然櫂が大声を出して振り返る。
「何だよ!?どうした?」
「また先生って言っちゃった
蒼佑って呼ぼうと思ってたのにっ」
「呼び捨てかよ」
「よく考えたら“蒼ちゃん”じゃ、皆と一緒で
つまんないし、そうすけって響きも好きだな」
口の端を上げてニッと笑う。
ああ、ダメだ可愛いすぎる!
顔が見えすぎて、直視できない。
紙袋からあれこれ取り出してリビングの
テーブルに広げる。
「間宮先輩たちと初詣行ってきたんだ
で、UFOキャッチャーでこれ取れたから
上げるね」
櫂が目の前につき出したのは、まあまあの
サイズ感の黄色いぬいぐるみだった。
「櫂…おまえ…それ邪魔だからここに
置いて帰ろうとしてるだろ?」
「そんな事ないって、これ1発で取れたんだよ!
スゴくない?200円だよ!?」
「ハイハイ、ありがと」
チョコレート色のソファーにソイツを座らせると
黄色のボディーが意外に馴染んで、その呑気な
姿に笑えた。
間宮と出掛けていたと聞いて少し気分が
下がったけど、それから美容院に寄って
そのまま1番に、その姿を見せに来てくれた
事は嬉しかった。
「団子買ってきたんだ!食べよ」
「…食べる前にベッド行く?」
横から櫂の頬を手の甲でそっと撫でると
忙しく動いてた櫂の手が止まった。
「今日はしないよ…やったら泊まりたく
なっちゃうし…今日は、せん…そうすけに…
髪、見せたかっただけ」
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