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「ガキが集まって酒なんて飲んで…… 10年早いんだよ…そんな集まりに行くな」 「うん…でも…先輩だし…。 誘われると断りにくくて…」 「夜は出れないとか、体調が悪いとか いくらでも理由なんて作れるだろ」 「夜、平気だって最初に言っちゃったんだよ それに、体調悪いなんて、毎回言うわけにも いかないし…」 「ふぅ~ん…あ、そ」 櫂がシャツのボタンを指先で弄りながら 俺の顔をチラチラ窺う。 そのまま脱ぐべきか、もう一度着るべきか 悩んでいるんだろう。 俺はすっかりやる気を無くして、ため息とともに 立ち上がった。 「着ろよ、送ってやる」 「え?」 戸惑う櫂の顔は見ずに、櫂の持ってきた 団子やペットボトルを袋に戻す。 櫂は眉を下げて、伏し目がちにボタンを閉め直して 上着に手を伸ばした。 「俺…1人で帰れるよ…」 「もう遅いから…」 俺が感情の無い声で言うと、もう反論する気を 無くしたように黙って荷物を持った。 先に玄関に立って待っていると、櫂が靴を履こうと して、少しバランスを崩したので、咄嗟に手を貸すと その腕をぎゅっと掴んでくる。 「……先生…また来てもいい?」 俺の目を真っ直ぐ見あげて、小さな掠れた声で 聞いてきた。 俺は返事をする気になれず、少し考えてから 櫂の頭を軽く撫で、目をそらしたままドアを開けた。 それが精一杯だった。口を開いたら余計な事まで 口走りそうで…。 車の中でもほとんど会話はなかった。 玄関の前で櫂は “先生” と言った。 たまたま、そう呼んだのか…。 何か意図があったのか? 聞きたい気もしたけど、胸の奥の鉛の塊が 消えなくて… 結局、おやすみ、と一言いって 櫂を車から下ろした。 聞いていたらこんな気分のまま1人で暗い家に 帰る事にならなかったかな? 櫂の返答次第で、少しは気が晴れていたのかも。 子供のおふざけにイライラするなんて大人気ない そんな事は自分が1番分かっているのに 胸の重さが消えない。 間宮が本当に、ふざけてやっただけだとしても 全然笑えない。 ちょっとでも下心があったとしたら… それはもう、笑えないというレベルではない。 面倒くさい…こんな感情面倒くさい。 ガキ相手にこんな気持ち…。 泥沼にハマる前に、全て捨てた方がいい。 少し、アイツと距離をおこう…。

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