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10. 汚れた僕

新学期が始まった。 俺と櫂は2学期が始まった時と同じように どこかぎこちなく、お互いを気にしながらも 目が合う事を避けていた。 授業以外で顔を合わせる事はなく、もちろん 会話も無かった。 何日もそんな日が続くと、それに少しずつ 慣れてゆく。 櫂と過ごした時間も夢だったんじゃないかと 思えて来るほどだった。 このまま、何も無かったことになっていくの だろう。一時の気の迷いとして消えてゆく。 今まで過ぎてきた日々と同じ。 振り返って懐かしむだけの思い出になるのだ。 学校で見かける櫂は少しだけ、子供っぽさが消え 更に、俺好みの青年に成長していって、密かに 目を奪われたけど。 この年の子は、ほんの少し目を離しただけで 突然大人になってしまう。 そのほんの一瞬に触れ合えた事はラッキーだった。 教師の立場で手を出して、誰にも見つからず 問題になることもなく、美味しい思いをしたと 後何年かしたら、笑い話として、進に話して 聞かせるのだろう。 櫂の方も1度 開いた距離を自ら埋めようとは しないだろう。 もともと動画をネタに脅されて、仕方なく関係を もった相手だ。結果的に性的欲求を満たすのに ちょうどいい相手になったとしても、スリルを 楽しんでいただけの関係は長くは続かない。 きっと、いい機会だと、櫂も思ってるだろう。 これで “危険な遊び” は終わるはずだった。 最初は誰にも言い訳なんてできない。認めよう。 確実に俺が悪かった。生徒の弱味を握って 関係を迫るなんて…教師としてあるまじき…イヤ 人としてあるまじき行為だった。 でも神様!この後の事は違うんです。 誘われたのは俺の方なんです! 俺は悪くないんです! アイツは、もう被害者ではないんです! 神様! 「白井先生、雪になるよ」 「ん?」 図書室で探し物ついでに本を読んでいたら 後ろから声をかけられ振り向く。 後ろの本棚を眺めたまま、一人言のように 櫂が話しかけてきた。 「夜から雨が雪になって吹雪くって 天気予報で言ってたでしょ?早く帰らないと」

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