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「車スタッドレスだからとりあえず平気 新田こそ早く帰りなさい。電車とまるぞ」 まだ図書室には何人かの生徒がいたため あえて普通の会話で返す。 「…うん…帰るけど…」 櫂もチラチラと部屋の中を気にしていた。 気にしているということは、ただの雑談をしに 来たわけではない。 「親父…電車止まりそうだから、そのまま ビジネスホテルに止まるって。 朝も電車 動くか分かんないし…」 「………へぇ…大変だな…」 俺は何も気づかないフリで、無表情で返した。 「今日はもうデリバリーか、何か買って帰るか… 家で大人しくしてた方がいいな 出歩いたりするなよ?」 「……」 櫂が何か言いたげに俺の顔を見つめる。 俺はその目を見ていられず、持っていた本を本棚に しまうと、タイミングよく図書委員が、閉めまーす と、声をかけてきた。 声に従って、残っていた数名の生徒がパラパラと 部屋から出ていく。 「さ、帰ろう…」 軽く肩を押して、一緒に図書室を出た。 出たところで生徒たちに、気をつけて帰れよと 声をかけて、櫂にも同じように振る舞って 図書室を出てすぐのトイレに入った。 櫂の言うとおり、朝から降り続いた雨が じきに雪へと変わるのだろう。 誰もいない薄暗いトイレは、体の芯まで 冷えそうな寒さだった。 「白井先生」 小さな小窓の向こうの灰色の空を見ながら 用を足していると、急に声をかけられて 油断していた俺は幽霊でも見たように驚いて 跳ね上がった。 振り向くと櫂がクスクス笑って立っていた。 「ゴメン、ビックリした?」 「したよ、そんな声で急に声かけんなよ あービビった」 櫂はよっぽどおかしかったのか 涙を流して笑っていた。 ぶつぶつ文句を言いながら手を洗う俺の傍らに 寄って来て、もう一度ゴメンと謝り、笑い続ける。 「何してんだよ。トイレに用がないなら 早く帰れ」 ハンカチで手を拭きながら、トイレを 出ようとする俺の背中を、引き留めるように 櫂が抱きついてきた。 「…おい?」 「せんせい…」 しがみついた手のひらが、俺のカーディガンの 胸の辺りをぎゅっと握る。 「こら…誰か来たら…」 「見られたらどうなるかな?」 「………」 「先生…俺の事避けてるの?」

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