69 / 150

13. 5

傷だらけで、小さくなって目を閉じる進が 眠るまでそっと頭を撫でていた。 櫂だったら…こんな目に彼があったら… 俺は何を思うだろう。 いくら自分にも非があるとはいえ これは暴力だ。 本当は死ぬほど悔しかったに違いない。 一緒にいたら守ってやれた。 それができなかった事は俺も悔しいけれど 報復してやろう、とか、迂闊な行動をした 進を責める気持ちは、これっぽっちも湧いてこない。 ー 櫂だったら… 考えただけで胃がキリキリと痛んだ。 きっとめちゃくちゃ怒ってしまう……。 言っても仕方がないと分かっていても どうしてあんな所に行ったんだ、と…。 手を出した奴を許さない、とも思うだろう。 こんな事がなければ気づかなかった。 進と櫂、どちらも同じように愛しいと思っていたけど いつの間にか…こんなにも違っていた…。 「キスしてよ…そうちゃん…」 目を閉じたまま、進が寝言みたいに呟いた。 俺は少し考えて進のおでこにキスをした。 ゆっくり顔を上げて何か言いたそうに俺を見る。 でも結局何も言わず、モゾモゾと手を伸ばして 俺の胸に顔を埋めて、進は静かに眠りについた。 ・ ・ 意識の遠い所で物音を聞いた。 何の音か考えられず、ただボンヤリ瞼をあげて となりで寝息をたてる進を見た。 バタンと、また物音がして、今度はしっかりと 目が開いた。 ー 今の音…玄関のドア? まさかな…鍵は閉めて寝たし…。 気のせいか…。じゃぁ何の音だろう? 俺の肩を枕にして眠る進を、起こさないように そっと体をずらして時計を見た。 朝8時を回った頃だった。 カーテンをしているとはいえ、部屋の中は 朝が来たとは思えない暗さで、雨でも降って いるのだろうか?と、なんとなくカーテンの方に 目を向けた。 「……何時?」 進が半分眠ったまま聞いてくる。 「8時過ぎ…。まだ寝てていいよ」 進の髪を鋤くように撫でた。 その時 部屋の引戸がガラッと音をたてて開いた。 飛び上がりそうなほど驚いて 逆に声も出なかった。 そこには人形のように固まった櫂が立っていた。

ともだちにシェアしよう!