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ドアの音に驚いて跳ね退く間宮と対照的に
櫂がゆっくり振り返った。
「お前ら授業中に何してんの?」
「…ちょっと…サボってただけだよ…
なぁ?」
間宮はあからさまに狼狽えて、誤魔化すように
櫂を見た。
櫂は応えず、首もとのボタンをとめている。
「間宮…今日出席してたの?
担任知ってる?」
「いや、ちょっと顔出しただけだから…」
「フラッと出てきて下級生に
授業サボらせてんじゃねぇよ
用がないなら帰れ」
静かに低く言うと、間宮はチラチラ櫂の方を見て
しぶしぶ教室を出ていく。
俺は一緒に教室を出て、担任に伝えとく、と
言って、間宮が階段を下りるのを見送った。
振り向くと、櫂は机の上に浅く座り、
大粒の雨が防音窓に叩きつけられて
流れ落ちていくのを見ていた。
その様子を見て、これは俺に見せる為の
パフォーマンスだったのだと確信した。
間宮も…普段のアイツなら もっと俺に反抗的な
態度を見せただろう。それをしなかったのは
男とイチャついて盛っていた事を、俺に詮索
されたく無かったからだ。
自分でも驚いたんじゃないだろうか。
男に誘われてそれにのってしまうなんて…。
ただ櫂に良いように転がされただけ。
「邪魔して悪かったな…」
俺の言葉に驚いた顔で振り返る。
「… とりあえず俺の授業サボるなよ
放っておいたら俺の責任になるんだ」
「……なんだよそれっ… 」
「俺がどうしたら満足なの?
もっと取り乱してお前を責めれば満足か?
それとも俺が悪かったって、うなだれて
泣いて謝れば気がすむの?」
櫂の顔色が変わっていく…落ち着きなく
唇を触って視線を泳がせて…。
「もういいよ…うんざりだ…」
俺が背を向けて教室を出ようとすると
櫂が慌てて駆け寄ってきた。
「…待ってっ!」
捕まれた腕を振り払って教室を出た。
「触るな」
「……!」
櫂は泣きそうな顔で俺を見たけれど
もう何も言わず、追ってもこなかった。
俺はそのまま体調不良を理由に早退した。
今日はもう櫂の顔を冷静に見れない。
何も考えられない。
自分を落ち着かせるのに精一杯で
何もできない。
見てしまった光景が目の裏に張り付いて
離れなかった。
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