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バイトが終わって、ロッカールームで いつものように携帯を確認した。 なんの期待もせずに。 (そっか、残念だな) 一言、返信が来ていた。 たった一言。 でもそれを見た瞬間に一気に涙が溢れて 慌ててロッカーに頭を突っ込んだ。 親父が仕事で帰るのが遅かったり 出張で居なかったり そんな時に頻繁に通っていた近所のファミレス。 蒼佑と何度もそこで会った。 俺たちは誰かに見られることを警戒して 外で食事したり出かけたりすることは ほとんど無かったけど、このファミレスだけは 何度か利用した。 俺にとっては蒼佑との思い出のつまった 特別なファミレスだった。 蒼佑が学校を辞めてしまった後も、度々 通い そこで時間を潰していると、フラっと蒼佑が 現れそうな気がして…。 つい長いこと居座って窓の外を眺めていた。 比較的住宅地にあるせいなのか、あまり人の 入りは良くなかったのかもしれない…。 1年ほど前に店は閉店して、あっという間に 駐車場に変わってしまった。 単純に近所のファミレスが無くなった、以上の 淋しさを感じたのを思い出す。 そんな俺の気持ちが蒼佑に伝わった気がして…。 残念だな、なんて、適当に打っただけだとしても “あのファミレス”が伝わっただけで嬉しかった。 そんな小さな事で喜べる自分は、我ながら バカだ。 分かっているけど、泣き笑いは止まらないのだ。 そのおかしなテンションのまま返信した。 送信ボタンは少し躊躇ったけど…。 今さら傷つくことを怖がっていられない あの日…。 蒼佑の家で最後にキツいお仕置きをされた日。 インターフォンを押す手がガタガタ、、 笑ってしまうほど震えてた。 怒っている蒼佑が怖かったんじゃない。 いよいよ自分は捨てられるのかもしれない…。 そう考えると怖くて、なかなかインターフォンを 押せず、エントランスでしばらく挙動不審な 動きをしていた。 あの時に比べたら、もう何も怖くない。 俺は一度、全て失ってるんだから。 だから平気だ。目を閉じて送信ボタンを押した。 (会いたいよ。蒼佑)

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