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22. 3
そっと、できるだけ静かに玄関を開けて
部屋に入る。
これは…ひとつ間違えば警察に突き出されても
文句の言えない事をやらかしている。
高校生の時とはまるで違う。
あの時は何も考えなかった。
ただ蒼佑を自分の物にしたくて
蒼佑に近づくヤツが許せなくて
それ以外の事は見えなくなってた。
まっすぐの廊下を、忍者にでもなったように
足音をたてず歩く。
突き当たりの扉を開けると、薄暗い中でも
そこがリビングだと分かった。
弱くエアコンがかけられていて、続き部屋に
なっている部屋の引き戸は全開だった。
部屋の隅にベッドが見えて、部屋から逃げるように
キッチンへ入った。
進さんにもらったビニール袋をそっと置いて
少しホッとしてからリビングに向かった。
蒼佑の携帯をソファーに…。
そう思ってクッションを持ち上げた。
「………え?」
もちあげたクッションを見て
驚きで動きが止まった。
ー これは……俺があげた、アイツ?
あれは…お正月だったろうか…。
軽い気持ちで、クレームゲームの景品を
蒼佑に上げた。
派手な黄色の、大人の部屋にはそぐわない
キャラクターのぬいぐるみ。
邪魔なだけだろ、なんて言って迷惑そうに
してたのに…。
「おまえ…まだ側に置いてもらえたんだ…」
小さく呟いたら涙が出そうだった。
自分でも忘れてた、その程度の存在を
とりあえず捨てられずに持っていてもらえた。
「進………?」
隣の寝室から蒼佑の声がした。
ー 物音に気づいて目が覚めたんだ……
覚悟を決めて1歩1歩、細かく震える足を
引きずるようにして部屋の前に立った。
蒼佑は暗い部屋で、薄いタオルケットに
くるまって寝ていた。
「………遅かったな…別に無理しないで
帰ればよかったのに……」
こちらを見ないで、おそらく俺の事を進さんだと
思い込んだまま目も開けずにポツポツ話す。
息をとめて、黙ってベッドの蒼佑を
抱きしめた。
「…お、どうし、、、」
驚いて俺を引き剥がそうと、弱い力で
俺の肩を押して止まる。
「……え!?」
「…蒼佑」
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