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22. 5
蒼佑は俺と戦うほどの気力もない、と
言うように、膝の上で組んだ腕に突っ伏して
ため息をついた。
「…俺……やっぱり蒼佑が好きなんだ」
決死の覚悟で言った言葉も
蒼佑には響かない。
突っ伏したまま動かず、俺は次の言葉を探した。
「……進さんがね、俺たちはまだ何も始まって
ないって…」
「………」
「蒼佑は………俺と別れて、辛くて
体調崩したってっ………」
「………だったら?」
「……え?」
低く冷ややかな声で返されて、喉がひっつく。
蒼佑がゆっくり顔を上げて俺を見た。
「櫂と別れたのが辛くて体調崩したとして
どうしたら良くなると思ってるの?
一緒にいたら治るとでも言いたいの?
俺、高校教師やってた時だって
おかしくなりそうだったよ。
お前が同級生や、上級生にちょっかい出して
俺に見せつけてた時だって、本当は直ぐ
引き剥がして、ぶん殴りたかったよ。
理性を保つために、何度も目をそらして
自分の中で見なかった事にした…」
「蒼佑…あの時は…」
ー あの時は子供だった
蒼佑の気持ちを確認したくて…
「教師やめた後だって、しばらく荒れてたって
言っただろ? でも、時間が解決してくれた。
会わないでいればすぐに忘れられるさ
普通に結婚して、家庭をもったら…」
「婚活なんてウソなんでしょ?」
「…は?」
「進さんが教えてくれた」
「……お前らどんだけ仲良しになったんだよ?」
蒼佑はあきれたように笑った。
「………まぁ、“してる”ってのはウソだよ
でもいずれ、本当にするよ」
「ダメ…」
「はい?」
「………結婚なんてしないでっ
病んじゃうくらい……好きでいてよっ……」
ー 言ってしまった……!
蒼佑の事を考えたら言ってはいけないだろう
ひとこと。
何が正解で何が不正解か
そんな事忘れて
ただ自分の心に正直に
蒼佑の未来を奪っても
それでも
今度はちゃんと大切にするから
…… やり直すチャンスを…!
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