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22. 7
部屋を出ると、リビングのあのぬいぐるみが
目について、俺は何も考えずに、その子を抱えて
玄関へ向かった。
玄関のドアの前でもう一度振り返る。
ひき止めてもらえるかも…なんて
ちょっと思って
立ちつくした。
蒼佑の寝てる部屋からは物音一つしない。
手に握っていた1万円札を靴箱の上に置いた。
初めて…あのホテルで蒼佑に乱暴された日
投げて捨てるように渡された1万円が
フラッシュバックして吐き気がしたから。
唇を噛んで、玄関のドアを押した。
ー 俺は何しに来たんだっけ?
考えると涙が出てくる。
まずい
深夜に成人男性がぬいぐるみを抱えて泣いてるなんて
誰がどう見ても異常だ。
必死で涙を拭って、駅まで急いだ。
駅前で客待ちしていたタクシーに乗り込んで
大きくため息を吐いた。
「バカみたい…」
窓に額をくっ付けて、口のなかで呟いた。
蒼佑に向けた言葉なのか…
自分に向けた言葉なのか…
心がぐちゃぐちゃで、もう何もかも捨てたく
なってきた。
自分の存在が軽くて、消えてくんじゃないかと
思うほど。
蒼佑は結局俺を求めてない。
あんな訳の分からない理由…ただの言い訳だ。
好きなら
愛なら
こんな風に突き放したりできるだろうか?
「……疲れた」
ただ愛してる、一緒にいたい。
単純な事なのにどうしてこんなに
ややこしくなったんだろう。
ぬいぐるみで顔を隠して、勝手に流れ続ける
涙をこっそり拭いた。
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