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(…なんだかんだ言って結局お互い大好きなんだ めんどくさいね、君らは) 進さんの声が笑ってる。 (まぁ、昨日の今日だしね…!そんなに直ぐ 切り替えられないか… じゃあ、もう少し元気になったらおごらせて 俺のせいで色々、嫌な思いさせちゃったしさ…) 「はい。落ち着いたら…」 進さんの優しい話し方や声を聞いてると こっちまでつられて、穏やかな気持ちになる。 悔しいけれど、蒼佑が離れられなかったのが よく分かる。 俺もこんな人になりたい。 お前が居てくれて良かったと言われるような…。 後日ルミにも全てを話した。 ルミはあきれ顔で、だから私にしとけばいいのに、 と冗談ぽくこぼした。 でも今は、ルミと寝るどころか人と会うのも おっくうだ。 孤独でいる事が心地いい。 父親と同居しているけど、もともと家には寝に 帰ってくるだけのような父親だし、出張でいない 事も多いから、距離感はちょうど良かった。 今はそれすらも煩わしい…。 もっと一人になりたいくらいだった。 “…俺は…ちゃんと待ってるから……” “…本当? 約束だからねっ……” 「………っは…!」 不快な汗とともに目覚めた。 自分の荒い呼吸しか聞こえない ひとりきりの自分の部屋で 夢と現実の境が、ほんの一瞬だけ 分からなくなって 暗い部屋の天井を凝視した。 俺は恋人ではなく、彼の生徒なのだと いつもどこかで感じていた。 甘えてみても、拗ねてみても、どこか適当に あしらわれている事は気づいていた。 だから嬉しかったんだ。 未来の約束を、蒼佑の方からしてくれて あの瞬間だけは恋人になれた気がしたんだ。 「…フフ……ウソつき」 あんなに喜んで…俺はバカだ。 一度思い出したら止まらない 頭の中で勝手に始まる蒼佑上映会。 とはいえ、持ってる幸せな思い出は少い。 直ぐに同じ思い出が繰り返し流される。 更新されない蒼佑の笑顔。 考えてみれば写真だって撮らせてくれなかった。 ー もっとねだれば良かったな1枚くらい 今さら考えても意味のないことを 考えながら、ギュッと目を閉じた。

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