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多分、蒼佑も俺の好みなんて知らない。 「俺たちお互いの事、ほとんど知らないの 知らないくせに、顔だけは毎日合わせてたから 知った気になってたんだ。 それなのに好きだなんて…笑っちゃうでしょ」 進さんは別に、と笑った。 「愛も恋も本来そういうものでしょー 好みが一緒だとか、お金持ちとか、 仕事ができるとか …。男とか女とか…。 理由つけて好きになるわけじゃないじゃん? 話し方とか仕草とか、そういう直感みたいなの? 最初は皆そうやって人を好きになると思うけど」 それを聞いて俺は、ついつられて笑ってしまった。 「……俺が進さんを嫌いになれないみたいに?」 「あ、マジ? よかったぁ。俺もなんだよね」 ビールのグラスの持ち方も 猫背な座り方も、話し方も ふにゃっと目尻を下げて笑う顔も。 この人を嫌える人がいるなら、その人はきっと 相当 歪んでる。 「フリット食べたい! カルパッチョ……は食わないか? 生ハムは?」 「いいですよ。お任せします。 好き嫌いは多いけど、食えないほど嫌いな物は ほとんど無いんで」 進さんは あっそ、と適当に聞き流して 本当に適当に注文した。 ー 不思議だな結構 自由人なのに… どうして嫌みにならないんだろ 進さんは俺に気を使わない。 でもそれは俺の意思や気持ちを無視してるという 事ではない。 きっと、どんな事で俺が本当に不快になるか とても敏感に感じとって、 それ以外の小さな事には無頓着なんだ。 だから自分勝手にふるまって見えても 結局相手を嫌な気分にはさせない。 居心地がいい。 色んな話しをしてくれた。 進さんの過去の事…。今の事…。 俺のこれからの事…。 話したくなったら、いつでも聞くと 言ってくれた。

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