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「まわり、気になる?」 ソワソワ落ち着かない俺を面白がるように ケンさんが笑う。 「…まぁ、、正直……」 「上に個室あるけどそっち行きたい? そっちだったらゆっくり飲めるけど 男漁りもできないな」 「もともと漁るつもりないです!」 俺は勝手に連れてこられたんだ。 …まぁ興味がなかったというと、ウソになるけど。 「ふうーん…蒼佑のこと ふっ切りたくないの?」 突然その名前を出され、それまでとは違った緊張で 体が強張った。 「…そんな事…考えてない…」 忘れようとして忘れられる訳ない。 無理して誰か別の人を好きになろうとも思わない。 「ケンさん久しぶりですね」 突然 背後から声をかけられ、振り返ると 髪をシルバーに染めた、見るからにヤバそうな ピアスだらけの男がニヤニヤとこちらを見て 立っていた。 「ああ、彼のデビューにお付き合い」 ケンさんはニコリともせずに、チラリと俺に 視線だけおくって答えた。 「へぇ~… え? 誘ったら怒られちゃう感じですか?」 ー は?何だって? 誘うって誰を? 「……さぁ?…どうする? ナンパされてるけど 遊んでくる?」 真顔で聞かれて、俺はゾッとして 小さく首を振って応えた。 ー 遊ぶって? 遊ぶってナンだ!? 「だってさ。残念でした。 他行って遊んでこい」 ケンさんが、ピアスの男の肩を叩いて追い払う。 「残念。彼、気が向いたら 声かけてね」 男は、ふらっと現れた時と同じようにニヤニヤ したまま、素直にその場を立ち去った。 「見慣れない奴が俺にくっついて現れたから ちょっと見に来ただけだよ 気にすんな」 「……ケンさん…やっぱ無理…帰りたい」 「……じゃ、上行く?」 「個室…? 」 「そ、ベッドのある個室」 「!?」 「どうせ蒼佑以外と寝たことないんだろ?」 「あ、あります…!」 「へぇ…それはちゃんと恋愛対象の相手? 無理やりされたとか、援交とかじゃなく?」 俺は心を見透かされたのかと驚いて 声も出なかった。 カウンターの上で握ったグラスがコトコト音を 鳴らして俺の手の震えを伝える。 ケンさんがそれに気づいて、そっと俺の手から グラスを取り上げて、すぐ横にコトリと置いた。 その時ピクッとケンさんが動き 内ポケットから携帯を出して、何か確認すると フッと笑った。 「……あとちょっと…かな…」 聞こえるか聞こえないかの、小さな声で呟いて またポケットに携帯をしまう。

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