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「今までと同じじゃないって、言ったの
俺だろ?」
「……そうだけど、、心配でさ…つい」
俺が目をそらして、ごまかすように笑うと
蒼佑がポケットからキーケースを出して
ひとつ鍵を外すと、机の上を滑らすようにして
俺の前に置いた。
「え?」
「合鍵」
「……」
「また、勝手に作られたら引くからな」
ニヤニヤ笑いながら言われて、俺は顔が熱くなった。
「いつでも好きなとき来ていいから」
「………あ~…浮気の時は家には連れ込まない
パターンでいくんだ?」
「うん、そうそう」
言いながら涼しい顔でコーヒーを飲む
蒼佑の足を蹴ってやる。
「いった!冗談に決まってるだろ、バカ
そっちこそ気をつけろよ!」
「俺は全然心配いらないもん」
もらった鍵を見つめて、笑いがこみあげた。
ー やっと欲しかったものが手に入ったんだから…
それを失うリスクを冒すなんて、バカな事
俺がするはずがない。
「おまえ……ケンさんと連絡先交換した?」
「……? してないよ?」
「そ、ならいい。
ケンさんに口説かれただろ?」
「……あれは、本気じゃなかったんでしょ?
蒼佑にカマかけただけでさ…」
「なんて言われた?」
「……え?」
蒼佑が俺の目をじっと覗きこむ。
俺は変に疑われたくなくて、正直に話した。
「蒼佑を忘れたいなら、他の奴と寝てみれば
いいって…」
「………ケンさんが言いそうなセリフ」
蒼佑はおでこを撫でながら、あきれたように
笑った。
「でも、きっともう会うことはないでしょ?
心配しなくても大丈夫」
「会ったらヤバイんだ?もう一度口説かれたら
キュンとしちゃったりして?」
「ちょっとぉ!あげ足とらないでくれる!?」
俺は何て言っていいか分からず
軽く机を叩いて反発した。
「…ップ、、ハハ…ゴメン!
だって、櫂あの時ちょっと まんざらでもない
顔してたからさ」
「してないわ!」
ー してた…カナ?
「ケンさんは気に入ったら、パートナーがいても
いなくても関係ない。何がきっかけで会うことに
なるかも分からないし…
俺と進の知り合いだからって気を許しすぎないで」
最後はすごく真面目な顔で言った。
素直に不安を口にしてくれるのが嬉しいなんて
どうかしてるかな…。
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