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第一印象3

雪永 千里を見ていて気づいたことはまず、 隙あらば眠っているということだ。 しっかり相手の話なんかは聞いているが、間が開いた途端すぐにうとうとし出す。 彼と面識がある人間の慣れた様子から察するに、これが彼の普通なのだろう。 偶々寝不足だとかではないことは確かだ。 不思議なのは、何かが始まれば寝ていてもパチっと目が開いて当然のように話を聞き始める。 なんだ? 彼にはセンサーか何かでも付いているのか? それとも遠隔操作式の人形とか…。 その不思議オーラにこちらの思考までおかしくなってくる。 顔合わせから今まで、雪永とは挨拶程度で会話をすることはなかった。 間瀬のやつは面白そうに絡みに行っては、その度に彼をわたわたと困らせている。 「はいオッケー!」 助監督がカチンコの拍子木を2回たたき、監督からのOKがでる。 初めは主に俺の役の出番ばかりだ。 雪永の役は後半に出てくるので、今は隅っこの方でちょこんと待機している。 前半は間瀬の役との掛け合いが多く、長年共演してきただけあってやりやすい。 その為かNGも少なく話はどんどん進んでいき、ついに後半、雪永の役の登場となった。 やっと共演だ。 周りから視線を向けられながら、出番のきた彼はトテトテとこちらへやって来る。 「あ。よ、よろしくお願いします…」 そう言ってぺこぺこ頭を下げる雪永。 俺は「ああ」とだけ返事を返すと、隣にいた間瀬がニヤニヤしながら肘で脇腹を小突いてきた。 「仲良くしろよ、ゆきゆきコンビっ」 「は?なんだそれ」 「だってお前ら、どっちとも“ゆき”って入ってるじゃん。雪永と幸。だからゆきゆきコンビ」 おかしな呼び名をつけられ溜息を吐く俺の隣で、雪永は「ああ、なるほど」と手を合わせている。 感心するところか?ここ。 「次俺出番ねーけど、ちゃんと見てっからね」 そう言って含みのある視線を向けてくる間瀬。 それに気付いた雪永は、相変わらずわたわたと動揺している様子だった。

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