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第一印象4
「本番!よーい、スタート!」
場所は廃墟となったとある工場。
犯人を追い詰めた俺演じる奥村だったが、そこには相手の仲間が複数待ち構えていた。
危機を迎える主人公。
その時、部下である雪永演じる宮下が駆けつける。
「奥村さん!」
声を上げる宮下。
そのよく通った声が、工場内に響いた。
「ああ?なんだテメェ」
「警視庁捜査一課の宮下です。時期に応援も来ます。大人しく投降してください」
「ハッ。お前みたいなチビが刑事?なんの冗談だよ!」
一帯が緊張に包まれる中、チンピラの1人が宮下に迫り、その胸ぐらを掴んだ。
宮下のかけていた眼鏡がカタンッと音を立て落ちる。
訪れる静寂。
そして次には、眼鏡の取れたその顔がゆっくりと上げられた。
途端俺は、いや、その場にいた誰もが息を飲む。
彼の射殺すような瞳に、ゾクリと背中を駆け上がるものがあった。
なんだ、これは…。
一瞬で豹変した雪永の演技に、一気に空気がもっていかれた。
見たものを惹きつける、天才的な演技力。
それに素で怯んだだろうチンピラの腕を取り、彼は吐き捨てるように言う。
「舐めてんじゃねぇぞ」
瞬間、宮下が動いた。
チンピラの掴んでいた腕を捻り上げる。
「ぐぁあ…!」
「な…!?テメェやりやがったなッ!」
「2人ともブッ殺してやるッ!」
地面にチンピラが押さえつけられたのをきっかけに、全体が大きく動き出す。
幸は以前にも何度かアクションの経験があり、その身のこなしは高い評価を受けていた。
一方でそういった機会がなかった千里だが、無駄のない綺麗で俊敏な動きに誰もが目を見張る。
(今回のキャスティングは当たりだったな)
そう心の中で呟いた監督は、鳥肌の立った腕を抑え、ニヤリとその口角を上げた。
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