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第一印象5
今日の撮影が終わりこの後の飲み会の話が上がる中、雪永は隅っこの椅子に座りまたうとうとしていた。
なんとなくその姿を眺めていると、不意に彼の瞼が開かれる。
雪永はぼんやりとした瞳でこちらを見上げた。
彼と目があった俺は瞠目する。
ただ寝起きで眠そうなだけだろう。
それなのに、妙に色気を感じたのだ。
潤んだ瞳。
僅かに開いた唇。
赤らんだ頬。
また始めて見る彼の一面に動揺している自分がいる。
「……あ、片岡さん。あの…、今日は、ありがとうございました」
そう言ってぺこっと頭を下げる雪永は、もう先程の空気を纏ってはおらず、いつも通りのほわほわとした彼だった。
さっきのは一体なんだったのだろう。
この子は本当に謎だな。調子が狂う…。
その時ふと、彼の前にコップ付きの水筒が置いてあるのに気付いた。
わざわざ持参していることを不思議に思っていると、何かを察した雪永がそれを手に取る。
「この水筒、ハーブティーを入れているんです」
「ハーブティー?」
予想外の答えに聞き返すと、彼はほわんと笑みを浮かべた。
「おれ、ハーブティが好きで。昔からよく飲んでます。ほっこりしますよ」
「はぁ…」
「あっ。紙コップありますし、どうですか?」
そう言うと彼は横に置いてある紙コップを持った。
ハーブティーなんて、飲んだことがあるだろうか。
いつもコーヒーばかりだから、紅茶は滅多に飲んだりしない。
「ハーブティーって、専用の茶葉でもあるのか?」
「ありますよ。でもおれの場合は違くて。えっと、ハーブを買って、それで作ってます」
そう言ってどうぞ、と差し出されたコップを持つ。
その薄い黄緑色のようなハーブティーからは爽やかな香りがした。
手に伝わる温かさが心地よく、そのまま一口飲んでみる。
「……美味しい」
じんわりと体が温まる。
寒いこの時期に、その温もりはひどく落ち着いて無意識にホッと息を吐いていた。
そんな俺と目が合った雪永は、嬉しそうに表情を綻ばせる。
その笑みに、何故だかハーブティーを飲んだ時と同じような
じんわりとした温かさを胸のあたりに感じた。
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