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第一印象6
「実はおれも、このドラマのオファーがきた時は、その…、迷ったんです…」
ハーブティーを飲みながら話をしていると、雪永はそう言って困ったように笑った。
「でも、相手役があなただと聞いて…」
「え」
言われて驚く。
まさか、彼も俺と同じ理由で引き受けていたのか。
「とても繊細な演技をされる方だと思っていました。それでいて、とても深い芝居です。見ていると、胸の奥の方に訴えかけられるものがあります。表面だけじゃないメッセージ性があって面白い」
ハーブティーを見つめながら独り言のように話す彼は、次にはハッと我に返って慌てだした。
「あ、す、すみません…っ。おれなんかが、生意気言って…っ」
「……いや、別にそれは構わないが」
本当に不思議な子だ。
俺の芝居について静かに語る姿は、また新たな彼を見ているよう。
コロコロと雰囲気の変わる彼に、心を振り回される。
こんなことは初めてだ。
「幸さーん。飲み会って参加するんですかー?」
すると向こうから松尾が呼びかけてきた。
それに思わず舌打ちしたくなる。
今は雪永と話しているっていうのに
あいつは空気を読むことができないのか。
「えっと…、じゃあ、おれはこれで…。あの、今日はありがとうございました。 また、よろしくお願いします」
気を遣ったのか、そう言って背を向ける雪永に咄嗟に声をかける。
足を止め、こちらを振り返った彼に俺は口ごもった。
まいった。
こういう時、どう言っていいのか分からない。
初めて自分の社交性のなさを呪った。
あの、その…と言い淀むこちらを雪永はきょとんとした顔で見つめてくる。
するとまた松尾が呼ぶ声がして、俺は殆ど投げやりになって切り出した。
「また今度、飯でもどうだ」
「へ?」
ぽかーんと口を開けてこちらを見つめられる。
しかし次にはどこか照れたように笑って、彼はコクリと頷いた。
「はい、喜んで」
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